「オステオパシー」は1874年、アメリカのA.T.スティル医師によって発表されました。
危険も多かった当時の医学に疑問を抱いたスティル医師は、手を使った安全な技術(一般的に「手技」と呼びます)で筋骨格系の異常を改善し、体全体の機能を向上させ治癒力を高めることで病気の予防や治療をする、という新しい医学システムを発案しました。そしてそれを、「オステオパシー」と名づけました。
「オステオパシー(Osteopathy)」という名称は、「骨の」という意味の「Osteo」と、「治療、病気」を意味する「Pathy」を語源として作られたものでした。
その後、様々な手技が考案、整理され、オステオパシー独自の手技体系が発展します。それは解剖学・生理学などの基礎医学に基づき、様々な状況に対応できる幅広いものとなりました。
その間にアメリカでは、「ドクター・オブ・オステオパシー(D.O)」の国家資格が誕生しました。アメリカのD.Oは通常の医師と同等とされ、外科手術や投薬も認められ、その上で手技も用いています。
さらにオステオパシーは世界各国に伝わり、現在はイギリス、フランス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドでも法制化され、それぞれの国ごとに受けるべき教育と業務範囲が定められています。
そして日本にもそれが伝わり、現在は複数の専門学校(民間)が存在しています。日本には国家資格がなく権限がないため、オステオパシー施術者は医学的診断・投薬・外科的処置などの医療行為はせず、その手技の施術のみをしています。
1953年のカークスビル(オステオパシー発祥の地)同意宣言から、序文をそのまま引用します。
オステオパシー、またはオステオパシー医学とは、哲学であり、科学であり、技術である。その哲学には、健康時および病気時の身体の構造と機能の調和の概念が含まれる。その科学には、健康維持および病気の予防、治療、緩和に関する化学、物理学、生物学が含まれる。その技術とは、オステオパシー医学のすべての分野、専門におけるオステオパシー哲学および科学の応用である。
つまり、「身体の構造とそれに伴う働きが健康と病気を左右する」ということを含む「哲学」と、「身体の様々な変化を説明する化学、物理学、生物学」を含む「科学」、そしてそれらに基づいた「技術」が「オステオパシー」または「オステオパシー医学」だ、ということです。
以下、序文の引用を続けます。
健康は、人間という生物体が持つ自然の能力を基礎としている。その能力によって、人間はその生活環境における有害な影響に抵抗し、そうした有害な影響が与える効果を代償することができる。適当な余裕もって、日常生活のなかの通常のストレスや、環境や活動の変化によってたまに起こる激しいストレスにも対処することができるのである。
病気は、この人間の持つ自然の能力が減退するとき、またはそれを上回る有害な環境に打ち負かされたときに起こる。
オステオパシー医学では、多くの因子によってこの能力および自然回復の能力が損なわれるとし、そうした因子のなかでも、筋骨格系の局所的な妨害や障害であることを認識している。したがって、オステオパシー医学とは、抵抗力および回復力のもとになるすべての力を解放し、より良く機能させることを目的としている。すなわち、医師は「患者の持つ病気」ではなく、「病気に罹っている患者」に対処するという、古代医学の考え方を認識する医学である。
これも簡単に解説すると、人間には健康を保つ能力が備わっているのだが、それが減少したり、それを上回る有害な環境に打ち負かされると病気になってしまう。
その健康を保つ能力は、筋骨格系の異常によって減少してしまう。そしてそれらに対処するオステオパシー医学は、健康を保つ能力をより良く働かせることを目的とするもので、患者の病気を退治するのではなく、患者が病気に勝つ力を高めるのだ、ということです。
続いて、4つの主要原理を短くまとめたものをご紹介します。
Ⅰ.身体は1つの単位である。ひとりの人間とは、身体、心、および精神の単位である。 (解説→おそらくなのですが、身体、心、精神というのは原文がbody、mind、spiritです。アメリカ発祥のオステオパシーですので、キリスト教的な考え方に基づき、物質としての身体と、脳の働きである心の他に、身体とは別の精神・魂のようなものがあると仮定されているのだと思います。そのうち身体は一つの単位にしかすぎないので、もっと広い視野でひとりの人間を捉えるべきだ、ということでしょう)
Ⅱ.身体は自己調節、自己治癒、健康維持能力をもつ。
Ⅲ.構造と機能は相互に関与し合っている。 (解説→体の構造物の状態が、体の機能と影響しあっている。筋骨格系など体の構造に異常があれば、体全体の機能も悪くなる、ということ)
Ⅳ.合理的な治療は、身体の調和、自己調節、および構造と機能の相互関係の基礎的原理に基づいている。 (解説→ⅠからⅢまでの原理に基づく治療こそ合理的である、ということ)
序文、そして4つの主要原理を合わせたものが、オステオパシー哲学の要約となるでしょう。
部分的な「病気」ではなく、広い視野から「人間全体」を捉え、その自己調節・自己治癒・健康維持能力を高めることを目的とするオステオパシー医学は、一般的医学では対処しきれない部分を補うことができるのではないでしょうか。
*引用・参照 『オステオパシー総覧』高木邦彦日本語版監修・森田博也翻訳/エンタプライズ